◆◇◆このページは【隊商運営協会】様が主催する「caravan」参加キャラの設定ページです◆◇◆


キャラバン1周年企画/人形劇、承ります。

 ラスは街の居住区の一角、小さな公園の広場で沢山の子供達に囲まれていた。
 年齢や体格が様々な少年少女が皆一様に一点を見つめてじっとしている。
 視線の先にはカーテン付きの箱があった。
 子供達が見ているのはその小さな箱の両端で大人しく立っている二体の人形だった。人形といっても、布で出来ているわけではなく、木で出来ているわけでもなく、焼き物でも泥人形でもなかった。
 子供達の初めて目にする、水で出来た不思議な人形だった。
 その人形は時々思い出したように身動きをし、その度に子供たちの中から驚きや感嘆の声が上がる。
 箱の右側に立つ人形は背筋をピンと伸ばし、足をきっちりと揃えて堂々とした男の姿の人形だった。一方の左側に立つ人形は、たおやかな風情で優しげなドレスを着た女の姿の人形だった。
 一人の子供がその好奇心に満ちた目を輝かせて手を伸ばした。
 すると、もう一体人形が現れて伸ばされたその小さな手に飛び乗り、子供はビックリしてその人形をマジマジと見つめた。
 男とも女ともつかない、ノッペリというかころりというか、特徴の無いことが特徴のような人形だった。大きさも二体より幾分か小さいようだ。
 箱の両端で静かに佇む二体とは違い、この小さな人形はよく動いた。
 子供達の間を駆け回り、時には子供の服に、頭にとよじ登り、そんな人形を子供たちは捕まえようと追い駆けて遊び始めた。

 それから半刻ほどして、数人の大人達が手に手に飲み物や簡単な食べ物を持ってやって来た。
「いやはや、遅くなってしまって申し訳ない」
 一人が頭をかきながら賑やかな子供達へと愛嬌のあるウィンクをして見せた。
 大人達に気付いた子供達は、待ってましたとばかりに母親の元へ駆け寄り、父親の手をおおはしゃぎで引っ張った。
 大人達が子供達の間に入って思い思いに座り落ち着くのを見計らって、大人しく佇んでいた男女の水人形が箱の前へと進み出て、揃って恭しくお辞儀をし、カーテンの中へと消えていった。
 そして、子供達から逃れた小さな人形が、箱の横の紐を引っ張ると、するするとカーテンが上がり、箱の中にあった物語の世界を公開した。
 大人からも子供からも、ぱちぱちと期待の篭った拍手があがった。

 ラスの口から、キャラバンの仲間達が普段聞き慣れた低い声とは違う、優しく流れるようなソプラノボイスが紡がれ、小さな舞台に人形達の織り成す物語が始まった。
 大人も子供も不思議な水の人形たちの演じる物語をお茶や酒を片手に、あるいは素朴な弁当を摘みながら楽しんだ。
 日常の辛いことも悩みも今この瞬間だけは忘れて、誰もがおまぬけな場面で笑い、クライマックスでははらはらと気を張り詰め、ハッピーエンドに互いの顔を見合わせて微笑んだ。


 小さな人形が劇の合間に弁当のおかずを持ち逃げして、子供たちにまた追い駆けられていたのもご愛嬌。


 うららかなある日の仕事先での出来事であった。


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