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第一夜テーマ/いたずらこねこ

 俺が外での仕事を切り上げて帰って来たのは、日も落ちかけ影も長くなってきた時分だった。
「はぁ、ちょっと遅くなったぜ……ただいまー」
 ぱきっ。
「ん?」
 ドアを開けて一歩踏み込むと、不意に何か踏んだ。
 いやな予感を感じながら、俺はゆっくりと視線を下へと向けた。
 足元に散らかっているのは無残にも爪研ぎ痕も生々しい香木の欠片だ。
 ついでに、少し離れた所には香木を焚く為の陶器までもが無残な姿となって転がっていた。
「っ! あの馬鹿猫! またやりやがったな!?」
 すぐさま、犯人は数日前からちょちちょろと現れる白猫だと目星をつける。
 大人の手のひらにすっぽりと収まるくらいの大きさのまだ小さな仔猫だが、通り沿いの窓に置いてある香木で爪を研ぐ癖があった。
 俺は発見次第その仔猫を叱りつけるが、いかんせん効果のほどは芳しくない。それというのも……
 俺は改めて室内を見回した。
 誰も居ない。
 ここ数日同じ事が続いたため、ヤツ“ら”の行動パターンは大体読める。
(まだ散乱した木屑がそのまま……という事は)
 俺は部屋をつっきって急いで勝手口に回った。そのドアの向こうからはうふふあははと楽しそうな声と共に甲高いにゃーと鳴く声が聞こえてくる。
 やっぱりか!
 予想が確信になると共に俺は軽い頭痛を覚えたが、かまわず勝手口のドアを勢いよく開けた。
 目の前に予想通りの光景があった。
 真っ白な仔猫を腕に抱えて日陰に座る親父。仔猫の頭を優しく撫でて微笑む母さん。遊びつかれたのか親父の足を枕に寝る弟2人。
 一見すればのどかな家族の団欒風景である。
 だが、俺にとっては怒りの種以外の何ものでもなかった。
「今日という今日は勘弁ならねぇぞ白猫! その皮剥いでやる!」
 俺は親父の腕の中の仔猫に怒鳴ったが、仔猫は母さんが頭を撫でるものだから相変わらず気持ちよさそうに目を細めるばかりだった。
「あらあら、シンちゃんってば……そんな物騒なこと言っちゃダメよ」
「そうだぞシンキ。ほら、見てごらんこの顔! 可愛いだろ〜」
 ……そう。俺がいくら叱っても爪とぎ癖が直らないのは、単に家族全員がこの愛らしい小動物に甘いのがいけないのだ。
「あ、そうだ部屋の片付けがまだだったな! うっかりしてたぜ」
 今やっと思い出したとでもいうように、親父はわざとらしく俺に向かってにっこりと笑って見せた。示し合わせたように母さんもにっこりと笑い、ぽん、と手を一つ打った。
「あら、そろそろ日が落ちてくるわ。この子たちもお部屋に入れなくちゃ! シンちゃん、シロちゃんお願いね!」
「え、あ……ちょっ、待て!」
 母さんが弟の一人を抱き上げて部屋へと戻り、続いて親父も仔猫を俺に押し付けてもう一人寝息を立てている弟を抱えて母さんの後を追った。
 俺は腕の中の仔猫をまじまじと見ると、ぽつりと呟くしかなかった。
「普通、渡すか? あんな事言った後に。俺に」
 にゃぁー。
 仔猫は肯定なのか否定なのか、相槌めいた鳴き声をひとつあげた。
 しかたなく、俺は仔猫を連れて大通りへと向かった。
 道々、仔猫は大人しかった。逃げ出すそぶりすら見せず、喉を撫でてやるとごろごろと鳴き、すでに馴染んだ近所の人たちに声をかけられれば愛想よくにゃーと鳴く。
(ひょっとして、ウチが飼ってると思われてんじゃねーだろな?)
 仔猫のふかふかの毛は撫でるとやわらかく、抱くと暖かい。
 小さいナリではあるが、確かに命がある。生きている。
 俺も結局は家族同様、小さな仔猫を無下には扱えないのだ。その上、俺の怒りは持続しない。
 だから、実際に仔猫をどうこうすることはない、とあの二人は分かっていて俺に預けるのだから始末が悪い。
 ここ数日、仔猫が家に現れてからというもの、どうも毎日がこんな感じである。
 仔猫がふらりとやってきて爪を砥ぎ、家族は片付けそっちのけで俺が帰って来るまでひとしきり仔猫を愛で、俺が仔猫を飼い主に返しに行っている間に片付けをする。
「ったく、あの宿屋の旦那、また今頃大騒ぎしてるんじゃないだろうなー……」

 旦那の営む隊商宿へ行ってみると、案の定、仔猫一匹の為に宿に滞在中の隊商(しかも先日俺が参加させられた隊商だ!)を巻き込んでの大掛かりな捜索隊が組まれていた。



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