◆◇◆このページは【隊商運営協会】様が主催する「caravan」参加キャラの設定ページです◆◇◆


【Caravan手合せ企画(仮)】 ジーニーの少年とジンの少女




 朝。
 白い光が夜の帳を押しやり、町を眠りから呼び覚ます。
 黒髪の少年は僅かに目を細めると、隊商に参加する前から日課としているらしい剣の稽古を始めた。
 剣を構えて振り下ろす。
 ぶんっ、と静かな砂漠の空に風を切る音が数度響く。

 ふと、少年が剣を振るう手を止め、金色の瞳をこちらに向けた。

「あんた、確か護衛仲間だろ。暇してんなら稽古に付き合わねぇか?」





「稽古の相手が必要なのか? ならば私がなってやろうか」
 少年の言葉に応えたのは一人の小さなジンだった。彼女もまた剣の稽古を日課としている。
 盗賊や魔物の出ない毎日は理想だとも言えるが、腕が鈍るのは本望ではない。

「丁度良い。私も誰かと手合わせしたいと思っていたところだったのだ」






(女……俺と同い年くらいか……でも浮いてるんだからジンだよな。なら見た目の年齢とも限んねぇか)
 
「俺はシンキ。一応魔道具士だが、こいつは魔道具じゃなくただの剣なんで、お手柔らかに頼むぜ」

 そう言って少年が右手に構えたのは刃渡り約80cm、柄を入れると1m弱といった長さの両刃の剣。
 しかし、その刀身は元は白であったのだろう茶色く薄汚れた布でぐるぐる巻きにされている。練習時の安全対策なのだろう。





 少年が掲げた剣を見て、僅かの間思案をめぐらせる。練習に真剣を使うわけにはいかない。
「少し待っておれ」
 と短く言い残し、少女は一旦その場を去った。

 しばらくして戻ってきた時には、同じように布の巻かれた剣を手にしていた。
「これでどうだ?慣れないから少々使いづらくはあるが……」
 そう零しながら、二度三度の素振り。

「私はサーラン・ヤーン。サーヤでいい。よろしく頼むぞ、シンキとやら」
 体に似合わぬ大剣を構え、サーヤと名乗ったジンはにこりと笑った。





(へぇ、随分とでかい剣だな。重そうだけど、ちゃんと扱えるのか?)
 少女――サーヤの武器を見て、シンキは目を見張った。
 どう見ても細身な腕には不釣り合いな存在感の大きすぎる剣。
 しかし、サーヤは馴れた手つきでその大きな剣を数回振り、いつもは無い布を巻いているので使いづらいとぼやいた。

(……油断大敵、ってやつか)
 師である父親の言葉を思い出し、シンキは改めて剣を握る手に力を込めた。
 剣の柄を握るのは右手だ。一般的には普通の事だが、左利きであるシンキからすれば利き手とは逆の手である。当然、スピードや力加減、反応速度なども利き手と比べて格段に劣る。
 女性相手に本気で力を振るうな、とも父親から散々教え込まれたため、女性相手には無意識に逆手で相対する癖がついてしまっているのだ。

「んじゃ、まずは手始めに俺から行かせてもらうぜ」
 せっかくの護衛同士の手合せだ。
 まずは相手の力量を測ってみたい。
 シンキは大剣を構える少女に剣を大きく振り上げて切り込み、相手の出方をうかがうことにした。


 


 ――“ 俺から行かせてもらうぜ。 ”

 振り上げられた剣が微かな風を起こす。逡巡する暇はない。
 剣の破壊力だけを見るならば、こちらの方が上手だろうか。性差による腕力の違いがあるとはいえ、ただの練習の開始直後から本気を出すようには思えない。
(ならば深く用心することもあるまい)
 ここはひとつ、相手の狙いを探るべきだ。この人物の力加減は最初の一撃でわかるはず。
 頭上で向きを転じた刀身を受けるべく、サーヤは体重を落とし、身構えた。

 衝撃は想定よりも小さかった。押し返す勢いのまま曲刀を倒し、交えた剣を払う。流れを止めずに飛び退くと数歩分の距離を取った。
(軽い手慣らし程度か。気楽にやろうというのか、それとも見くびられているのか)
 相手に本気を出される前に片付けてしまったほうがいい。それが砂漠で剣を持つ者の心得だと、今まで会った戦士はみな癖のように口にしていた。
 できる限り早く戦闘不能に陥らせるには。
(足だ)
 身長の低いサーヤにとっては定石となっている選択である。足を叩けば充分に力を殺ぐ要因になると、ある剣士が教えてくれた。
「次は」

 剣を体の右後方に構え、狙いを定める。
「私から行くぞ!」
 肚の底から一気に吐き出し叫んだ。同時に前へと強く踏み込む。
 手にした曲刀は大きな円を描くようにして、シンキの左下肢へと向かっていった。





 振り下ろした剣は、少女の振るう大剣にあっさりと払われた。
(そりゃあ、これくらい流せなきゃ護衛なんかやってねぇか)
 しかも、サーヤはおそらく戦士だろう。
 初めはジンである彼女は知り合いと同じく魔法士なのかと思った。
 だが、もし本当に魔法士だとしたらその攻撃は魔法主体の為、使う武器は補助的な役割の小ぶりな扱易い物が主となるはずだ。体格と不釣り合いな、行動を制限するような大剣をわざわざ使う必要はない。
 魔法士でないのは戦う側としてはありがたいが、彼女がジンであることに変わりない。いつ魔法を使うとも限らないので、気をつけるに越したことはないだろう。

「次は私から行くぞ!」
 剣を払う反動で距離を取ったサーヤが踏み込んで来た。

 先ほどのサーヤの様に剣で受け止めてみれば、彼女の力具合がわかるだろうか?

 そう逡巡する間もなく、シンキの身体は迫り来る大剣の間合いから逃れようと、後ろへ大きく跳び退ろうとしていた。
 小さな頃から培われてきた経験が、思考するより早くこの場は危険だと判じていた。





 力を込めた一振りが、その対象を捉えることはなかった。大剣は空を切る。
 (外した!)
 初撃は何の効果もなく終わった。
 一瞬のうちに次の行動を見極めねばならない。飛び退った対戦相手はまだ攻撃の範囲内だ。
 振りきった剣を左手に持ち直し、刀身を反す。打撃力では両手に劣るが、回避後の僅かな隙を突くことができれば成果を得られる。
 (こちらから行くまでっ)





(〜〜〜〜〜〜あっぶねぇっ!)
 大剣の軌道をかわしたシンキは、追撃に備えてすぐさま体勢を立て直そうとさらに一歩下がった。





 距離を置こうと下がる相手へ、また一歩踏み込む。
 「たあっ」
 今度こそ当たれと願いながら、精一杯の勢いをつけて切り上げた。





(あれは……サーヤ?)
 アンシェはロバやラクダの世話の最中、知った人物が練習試合をしているのを目にした。
 相手の顔も見たことがある。同じ隊商の護衛の人。
(よしよし、ここはひとつ応援を……)
 手にしていた飼葉桶を床に置き、深く息を吸い込んだ。

「サーヤは負けろー!相手の人、頑張ってねー!!」

(ふう、すっきりした)
 アンシェは桶を再び手にすると、仕事場に戻っていった。





「うがっ」
 攻撃は上手くいったものの、背後から飛び込んできた変な声に気勢を殺がれた。
 声の主は想像できる。
(あいつ……あとで文句言ってやる)

 サーヤは剣を握りなおすと、再び集中し直した。





(痛っ……)
 体勢の立て直しが甘かったらしい。サーヤの連続した攻撃をくらってしまった。

「サーヤは負けろー!相手の人、頑張ってねー!!」

 ふいに女の声が割って入る。
 視界の端で捉えると、動物たちに混じって鳥獣使いの少女を見つけた。
 言葉を交わした覚えはない。故に、応援される覚えもない。
(こいつ、なんか恨みでも買ってんのか……?)
 名指しで負けろと言われた目の前の相手に、一瞬逸れた意識をまた戻す。
 三撃目はまだない。
(……行くか)
 シンキはお返しとばかり足に力を込め、思いっきり蹴り上げた。狙いは胴だ。

(当たり!)
 横槍を入れられたお陰でサーヤの気がそがれたらしい。反応が遅れている。

(この間にこっちも態勢立て直すかな)






 空が明るんで遠方から白くなっていく。
 太陽と別れた大地の空気はまだいささか冷たいが、次期にこれでもかというほど暑くなるだろう。
 夜警護などの不規則な生活から解放された身になっていたソティスは、この空気を最近は毎日味わうようになった。

『とはいえ、動いておかないと体もなまってしまうしな。』
 そう思って毎朝外へ出る。まだ早い時間だと思っても、外に出れば人々は1日の活動を始めているものだ。
 今日もほら、剣の混じりあう気配がする。何とはなしに寄って行ってみると、そこには護衛と思しき人影が二人。
『稽古かな?』
 刀身に巻きついた布のせいで、ぶつかり合う音が鈍い。
『一人は、そういえば同じ魔道具士として見たことがあるな。』
 などと思っていると、別の方向から声がした。
「負けんなよー、戦士代表ー」
 声の発生源を探ると、そこにアルファルドの姿を見つける。
「ははあ」
 それを見てソティスはくすりと笑った。
「魔道具士代表もがんばれよ!」
 冷えた朝の空気に凛と声が響いた。






(――っ!)
 横腹に衝撃が走った。危うく剣を落としそうになるも、辛うじて持ちこたえる。

「負けんなよー、戦士代表ー」
 見物者のものらしい声が耳に届く。聞き知った声だ。顔を確かめる余裕はないが、同じ護衛にいたような。

 蹴りを仕掛けた張本人に、更なる攻撃を仕掛ける気配はないようだった。足が後ろに滑る。
(ここでやり返さねば何になる?)
 手の中の大剣に再び意識を集中させ、倒れこむように斬りかかった。





「魔道具士代表も頑張れよ!」
 凛と響く声に
(俺、今別に魔道具使ってねーんだけどな)
 と胸中でツッコミを入れつつ、シンキは目の前の相手の出方をうかがった。

 サーヤは脇腹に一撃を食らいながらもひるむどころか大剣を片手で振った。
 だが、シンキに悠々と逃げられてしまい、剣は空を切っただけだった。やはり力が十分に込められていなかったものらしい。

 そして勝負は決まった。
 一方は攻撃後、すぐさま退いて反撃体勢をしっかりと立て直した状態。もう一方は攻撃が空振りして体勢も不安定な状態である。どちらが有利かは素人目にも明らかだ。

 サーヤの細い首筋に、ざらりとした感触が走る。シンキの剣に巻かれた粗目の布の感触だ。
「俺の勝ち、だよな」
「………………あ」
「あ?」
 サーヤの視線は何故かシンキを通り越して斜め上へ。

「それはええんやけど、シンキちゃんはよ来な朝飯のーなるでー?」

 シンキの頭の上に腕と顎を乗せてリディアンが声をかけた。
「サーヤちゃんはろーんw 二人とも朝から元気やねぇー」
「リディアンか!? ……ってか、どけ! 重いっつーの!」
 手合わせ中の無口ぶりはどこへやら、シンキがわめく。微妙に体重を乗せられているらしい。
「こんくらいで重いゆーとったら女の子お姫様だっこ出来へんで〜?」
「誰がやるか!!」
 けらけらと笑うリディアンに不機嫌全開のシンキ。
 今さっきまでの緊張感のかけらすら、もう見つからない。
「ま、それはそれで置いといて」
 勝手に話題を振っておいて、いい加減に放りやがった。
「オレ、朝飯出来たからシンキちゃん呼んで来いってラス兄ぃに言われて来たんや。っちゅーワケではよ帰って飯食おーw あ、サーヤちゃんもついでにどや? ラス兄ぃの料理結構美味いんやで♪」
「え、私か!?」
「ほな出発ー!」
「って、こら……ちょっと待っ……」

 こうして腹ぺこ火のジンの青年はジーニーの少年と水のジンの少女をひっ連れて、美味しい朝ご飯めざして駆けていくのでした。
 めでたしめでたし。まる。





<挿絵提供:あさなぎあやさん>







[朝ごはん、その後。]

 朝稽古の後の食事は最高に美味いぞ、と嬉しそうに言っていたのはどこの旅人だったろうか。
今日になってようやくその言葉の意味を知ることになった。普段行っているたった一人での型の練習など、比較するに及ばない。
 試合結果に不満であった最初の気持ちはどこへ行ったか、今は欠片も見当たらなかった。現金な奴めと自戒する。
(次こそ、はっ)
 ひとつ伸びをして空を見上げる。雨季だと聞くが、疑いたくなるほど雲ひとつない晴天である。
 ぐいと張られた背の緊張をほどくと、一気に肺の空気が入れ替わった。深く吸い込んだ風は、砂と、人と、水の混ざり合った匂いがする。それはつまり――今日も私はこの世界にいるということ。
 背中の剣を確かめ、満たされた腹の具合も確かめ、サーヤはふわり、青い空へと飛び立った。
















<あとがき……のようなもの>

 第2〜3夜頃に行った手合わせ企画の内容を読み物としてまとめてみました。
 読みやすいように多少手を加えさせて頂きましたが、大体は元の文章をそのまま引用させていただいております。
 不具合ございましたら削除いたしますので、関係者様はその旨一言お知らせくださいませ。


Special thanks! 
 サーヤ、アンシェ(@あさなぎあや)さん。
 アルファルド(@たまだかや)さん。
 ソティス(@えるみ)さん。


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